僻地中の僻地「青崩峠」で真っ暗に。怖すぎて撤退した話
静岡の果て、長野との県境に青崩峠(あおくずれとうげ)という峠があります。未舗装の登山道を含むにも関わらず実は国道(=酷道)・大断層である中央構造線上にある、ということで非常に有名で、前々から気になっていました。
先日例によってロードバイクで行ってきたのですが、あれこれあってたどり着いたときには日が暮れていました。やばくね?と思ったけど、そのまま突入したら…ロードに乗り始めてからいちばんくらいに怖かったです。
大がかりなライドをするのが久々ですっかり忘れていましたが、僻地でナイトライドになるのは絶対に回避するように予定を組むべき(当たり前)。
夕方にたどり着いた時点で負けていた
青崩峠はこのへんにあります。長野と静岡の県境、付近を秘境路線・飯田線が通る、僻地中の僻地です。
道中でさえ人家はまばら。メカトラブルなどで動けなくなっても助けは期待できない、細心の注意を払って赴くべきロケーションです(それで政令指定都市・浜松市内だったりもするんだからすごい)。
が、今回はそんな青崩峠を夕方になってから上り始めました。ふつうはやらないし、やるべきでもないけど、いろいろと魔が差してやってしまいました。
青崩峠は国道152号をずっと北上すればたどり着けるのですが、「交通量多そうだからヤだ」ということで天竜スーパー林道を迂回するコースを引いているのがひとつ大きいです。距離60km・獲得票高1800mほど走ってから青崩峠区間(距離12km・獲得票高700mほど)を上り始める形ですが、東京近郊だと都民の森を2回上ってから風張林道に突入がイメージ的に近いです。さくっと走れるコースではないです。おまけに後述する理由で、走り始める時間もあまり早くありませんでした。
どうしてそんなガバガバプランが決行に移されてしまったかというと…「ワクチンを2回打ち状況的にも長く我慢していた遠方ライドができるヤッター!」という勢い。これに尽きます。
当然のように超激坂
青崩峠はかなり激烈な峠で、平均勾配は10%を越え、ガーミンは道中12〜18%をコンスタントに示していました。舗装は当然コンクリート。
そんな峠にがっつり疲労した状態で突入するとどうなるか。速攻で両脚が攣ります。斜度14%が続いたあたりで攣り始め、さすがに脚をついたのですが、激坂すぎて立ってるだけでも自重が重くのしかかり、少し休んだくらいではおさまらない。
痛みの中ですごい焦りました。なんでって終電の時間が迫っていたから。前日にあれこれ予定があった関係で、日帰りで実行せざるを得ませんでした。始発で東京から静岡まできて、終電に滑り込んで帰京する必要がありました。
にも関わらず、やっぱり山頂を目指すことに。書いてて「コイツ正気か?」って感じになってきました。
「簡単にこれる場所ではないから、今回絶対に行っておきたい」という欲に駆られていました。自分の希望を状況に優先させており、冷静さを欠いていたと言えます。
人の領域であることをやめた古い峠道
その後、足神神社という神社に到達。しかし誰もおらず、真っ暗闇の中におぼろげに社が見えるだけ。道の脇に「〜の墓」という看板があって、「ここに死者が眠っているのか」と空恐ろしくなりました。周囲の森からは、草むらがガサッと鳴る音や、ギャーギャーと何かが鳴く声がしてきます。
撤退の判断をしたのは、青崩峠山頂へと向かう登山道にたどり着いたとき。舗装が終わり、未舗装の山道が続いているのを見て、先に進めなくなってしまいました。
疲労が蓄積していてもう上りたくなかったというのもありますが、未舗装の道に濃厚な存在の気配──人ならざる何かが待っているような感じを覚えたのがいちばんの理由です。平たくいうと、雰囲気怖すぎて無理!
かつて青崩峠は秋葉街道(海のない長野へ塩を運ぶ、塩の道)として利用されていましたが、今はほとんど使われていません。旧道などを走る人はわかると思いますが、使われなくなった領域は朽ちていって人の領域ではなくなっていきます。崩落や野生動物に遭って怪我などをしてもぜんぜんおかしくありません。↑ではややオカルティックな書き方をしてますが、要は本能的に危険を感じた身体が拒絶した、って感じだったんだと思います。
あとで確認したところ、↑で登場した墓は霊犬・しっぺい太郎のものであり、怖がるようなものではありませんでした。足神神社も創建1250年頃、無病息災・健脚の御利益がある神社だそうです。
ナイトライドしていい場所と、そうでない場所がある
ダウンヒルにも時間がかかりました。暗闇の急カーブは、完全にスピードを殺さねば事故る気しかしません。フロントホイールをかすめるように草むらから草むらへ消えていく野ウサギにも肝を冷やしました。
綺麗なアスファルト舗装が見えてきたときは本当に安心しました。そこから55kmほど下らねばなりませんが、ささいな問題でした。この道を行けばちゃんと帰れるのですから。遠州鉄道 西鹿島駅を出る終電には無事間に合いました。
ちなみに、今回輪行で使った遠州鉄道はネット怪談「きさらぎ駅」の舞台になったとされています。いつも乗る電車に乗ったら、奇妙な駅にたどり着き、人ならざるものと遭遇する、そんなお話です。きさらぎ駅は遠州鉄道の延長上にあるということになり、青崩峠は候補地となりうる場所にあります。
きさらぎ駅が青崩峠にあった、と言いたいわけではなくて、そうであってもおかしくない雰囲気だったなと。